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Horsemade Landscape - 馬とつくる風景

Horse Logging — 馬搬を知る

その仕事と歴史
森の中で馬搬をする農耕馬。北海道オシアンクルの森

1. 馬搬とは

馬の力を使って、山で伐採した木材を運び出す技術を「馬搬」といいます。

地域によっては「地駄曳き(じだびき)」とも呼ばれ、英語では「Horse Logging(ホースロギング)」といいます。

重機が入れない急斜面や狭い山道、水辺に近い繊細な森でも、馬は4本の脚で確実に進み、木を曳き出します。

チェーンソーで伐採した木材を、馬具と専用の道具を使って馬に曳かせ、集材場まで運ぶ。その一連の作業が馬搬です。

 

馬搬に使う主な道具
【ハーネス(馬具一式)】 馬搬で最も重要な道具は、馬が身につけるハーネス(馬具)です。重い木材を安全に運ぶためには、馬の体に合った正しいサイズのハーネスを着けることが大前提です。

中心となるのが「カラー(英:Collar/日:ハモ)」と呼ばれるパーツです。馬の首から肩にかけてはめる楕円形のクッション材で、荷重を気管ではなく肩甲骨周辺の筋肉に分散させる構造になっています。カラーが正しくフィットしていれば馬は肩と胸の筋肉を存分に使って力を発揮できますが、サイズが合わなければ肩や首を傷め、馬の健康と作業効率の両方を損ないます。カラーの外側にはめる金属製の「ハメス(Hames)」がチェーンやトレースとの接続点となり、引く力を荷物へと伝えます。

【ドッコイ(引き棒)】 馬と木材をつなぐ連結具です。チェーンや索を介して丸太に固定し、馬が引けるようにします。障害物を避けながら木材をコントロールする際にも使います。

【バチ/スキッドコーン 】丸太の先端に取り付ける金属製の道具です。日本では「バチ」と呼ばれる鉄板が使われてきました。海外では「スキッドコーン」と呼ばれる同様の道具が普及しています。丸太の先端を地面からわずかに持ち上げることで摩擦を大幅に減らし、馬の負担を軽減しながらスムーズに木材を搬出できます。

【ロギングアーチ】 丸太の先端を地面からより大きく持ち上げて運ぶための二輪の架台です。地面との摩擦をさらに減らし、馬の負担を軽減します。丸太が馬の後脚に当たることも防ぎます。

2. 日本における馬搬の歴史

山仕事を支えた技術

昭和の中頃まで、北海道、八戸、遠野、木曽、九州など各地で馬搬が盛んに行われ、日本の山は人と馬で賑わっていました。(出典:全国町村会コラム「馬搬」)

馬方たちは急峻な山に分け入り、馬と呼吸を合わせながら丸太を曳き出しました。冬は木が乾燥して品質が良く、雪によって摩擦が軽減されるため、馬搬の最盛期は冬の山でした。白い雪の中、白い息を吐きながら馬と人が一体となって木を運ぶ光景は、山仕事の文化そのものでした。

馬方の技は長年の経験と馬との信頼関係の中で磨かれるものでした。山の地形と雪の状態を読み、木が転がって馬や人にぶつからないよう経路を判断し、馬の歩調と荷の重さを常に感じ取りながら進む。その仕事は力だけでなく、馬と森を同時に読む感覚を必要としていました。

衰退——しかし絶えなかった

昭和中期以降、チェーンソーとトラクターの普及によって馬搬の担い手は急速に減少しました。かつて日本中の山で当たり前だった光景は、ほぼ完全に消えていきました。

しかし完全には絶えませんでした。岩手県では数少ない担い手が技術を守り続け、平成22年(2010年)には岩手県の協力により「遠野馬搬振興会」が設立されました。北海道、岩手、福島、長野など、ごく少数の担い手が各地で細い糸のように技術をつないでいます。(出典:岩手大学農学部発表資料、2016年)

3. なぜ今、馬搬なのか

森は、静かに傷ついている

現代の林業は高性能な機械によって支えられています。大型のハーベスター(伐採機)とフォワーダー(集材機)は、かつて人と馬が何日もかけてやっていた仕事を、数時間でこなします。効率という点では、機械に馬は敵いません。

しかし機械が去った後の森を見ると、別の現実があります。数トンから十数トンに達する重機が繰り返し通った地面は深く抉れ、轍が残り、土壌は踏み固められています。この踏圧によって土の中の空気と水の流れが断たれ、根が伸びにくくなり、微生物の働きが弱まります。傷ついた立木から樹液が滲み、重機が通れるよう切り開かれた搬出路は、雨のたびに土砂を流します。その土砂はやがて近くの沢や川に流れ込み、水生生物の生息環境を変えていきます。

効率の代償は、森全体が払っています。

 

馬が森に残すもの

馬の体重は600〜800キログラム。4本の蹄で分散して踏むため、重機と比べて土壌への圧力は格段に小さくなります。蹄が地面を軽く引っ掻くことで、むしろ種の発芽を助ける適度な撹乱が生まれます。(出典:woodlands.co.uk「Horse-logging – less damaging and more practical for woodland owners」)

馬は立木の間を縫うように進み、残すべき木を傷つけません。搬出ルートは複数取れるため、同じ場所を何度も踏み荒らす必要がありません。騒音もなく、排気ガスもない。作業中、森の鳥や動物たちは普段と変わらない時間を過ごしています。

そして馬は森に堆肥を残していきます。馬糞は土に還り、森の土壌を豊かにします。持ち出すだけでなく、返すものがある。

 

政府が保護林で馬を選んだ理由

2025年3月、ウェールズの法定自然保護機関「Natural Resources Wales(NRW)」は、特別科学的関心地区(SSSI)に指定された保護林「Coedwig Dyfi」での林業作業に馬搬を採用しました。(出典:Natural Resources Wales公式サイト、2025年3月)

目的は生物多様性の回復とハビタット連結性の向上です。作業内容はブナを選択的に伐採し、在来種であるオークの広がりを支援すること。オークはブナより樹冠が軽く、より多くの日光を林床に届けます。日光が届いた林床では植物の多様性が豊かになり、昆虫、鳥、小動物の生息環境が広がります。

この作業で馬搬が選ばれた理由は明確です。保護林という繊細な環境で、生態系への影響を最小限に抑えながら木材を搬出できる手段が、馬以外になかったからです。

NRWの生物多様性回復担当官は述べています。「撹乱を最小限に抑えることで、森の植物や野生生物が最もよく育つ環境を作り出しています。この作業はハビタットの連結性改善にも貢献します。異なる生息環境の間の条件を整えることで、植物や動物が広がり成長する助けになります。」(出典:同上)

 

選択的伐採という思想

馬搬は「選ぶ林業」です。

重機による大規模伐採は、効率のために区画ごと一気に木を倒します。一方、馬搬は伐採する木を一本ずつ選び、一本ずつ運び出します。残す木を傷つけず、森の構造を壊さずに、必要な木だけを取り出す。

この選択的伐採は、森の長期的な健康にとって根本的に異なるアプローチです。残された木々は光と空間を得て育ち、多様な樹齢と樹種が混在する森が維持されます。単一樹種の人工林ではなく、複雑な生態系を持つ森が残ります。(出典:British Horse Loggers公式サイト)

馬搬とは、森から何かを取り出す技術であると同時に、森をどう扱うかという思想でもあります。

4. 世界の馬搬——今も現役の技術として

なぜ欧米で馬搬が続いているのか

欧米で馬搬が産業として生き続けている背景には、生物多様性保護と持続可能な林業への社会的要請の高まりがあります。重機による大規模伐採が森の生態系に与えるダメージへの認識が深まるにつれ、低インパクトな代替手段としての馬搬の価値が改めて見直されています。

効率だけを追えば機械には勝てない。しかし森を健全に保ちながら木材を取り出すという目的においては、馬搬は最も理にかなった選択です。その認識が欧米の現場と政策を動かしています。

世界では今、馬搬への関心が改めて高まっています。

🇬🇧 イギリス——130名以上の登録業者。保護林での公的採用事例あり。

🇸🇪 スウェーデン——年間100万立方メートルを馬で輸送。大学と現場が連携。

🇩🇪 ドイツ——連邦政府が国家政策として推進。需要が供給を上回る状態。

🇫🇷 フランス——専門業者団体DCEが全国展開。自治体の補助金制度あり。

🇺🇸 アメリカ——「修復的林業」として非営利団体が推進。野鳥保護にも活用。

 

イギリス——産業として生き続ける馬搬

日本で馬搬がほぼ姿を消した後も、イギリスでは馬搬は産業として生き続けました。

「British Horse Loggers(BHL)」は、林業で馬を使う業者と支持者を代表する独立団体です。現在約130名のアクティブな馬搬業者が登録されており、そのうち約3分の1が女性です。林業のバックグラウンドではなく馬のバックグラウンドから入ってきた人が多いのも特徴で、馬搬が単なる林業技術ではなく、馬との関係性を軸にした仕事であることを示しています。(出典:woodlands.co.uk)

BHLに登録された業者たちは、民間の大地主から国有林、野生生物保護区、地方自治体まで幅広い現場で活躍しています。急斜面から湿地まで多様な地形に対応し、一般の人が立ち入る森でも作業中に通行を妨げる必要がない点も、馬搬ならではの利点として評価されています。(出典:British Horse Loggers公式サイト)

BHLは新たな担い手の育成にも力を入れており、1週間の集中入門コースと12〜18ヶ月の現場研修を組み合わせた育成プログラムを運営しています。馬搬は過去の技術ではなく、次の世代に継承される現役の職業として位置づけられています。(出典:同上)

スウェーデン——大学と現場が連携する技術

スウェーデンでは、スウェーデン農業科学大学(SLU)と現役の馬搬業者たちが連携し、「The Horse in the Forest」(著者:Hans Sidback)という専門書を刊行しています。1960年代初頭まで馬はスウェーデン林業における非舗装路輸送のほぼ全てを担っていました。その後機械に置き換えられましたが、現在も年間約100万立方メートルの木材が馬による輸送で賄われており、学校や研究機関での馬搬講座への関心も再び高まっています。(出典:orionforestry.co.uk「The Horse in the Forest」)

 

ウェールズ——保護林での実践

先述の通り、2025年にウェールズの法定機関NRWが保護林での生物多様性回復プロジェクトに馬搬を採用したことは、馬搬が現代の自然保護の文脈でも最前線の選択肢であることを示しています。(出典:Natural Resources Wales公式サイト、2025年3月)

ドイツ——国家政策として推進される馬搬

ドイツでは2021〜2025年の連邦政府連立協定に「森林での馬搬の推進」が明記されました。国家政策として位置づけられるほど、馬搬への社会的評価が高まっています。

ドイツ連邦自然保護局(BfN)は、馬搬は機械と比較して生態的・経済的メリットで優れているとして、森林での馬の活用拡大を正式に推奨しています。具体的なメリットとして、立木へのダメージ低減、土壌保護、轍の減少、排出ガスの削減、そして搬出路間隔の拡大による有効森林面積の増加を挙げています。(出典:ドイツ連邦自然保護局BfN、waldwissen.net)

テューリンゲン州では現在約12名の馬搬業者が活動していますが、需要は供給をはるかに上回っている状態です。州政府は馬搬業者に対して長期的な展望を与えることを目標に掲げ、細い木材や繊細な場所での作業を馬搬の主な活躍の場と位置づけています。(出典:forstwirtschaft-in-deutschland.de)

フランス——環境保護の文脈で再評価

フランスでは2006年から、動物牽引による木材搬出を専門とする林業業者たちが「Débardage Cheval Environnement(DCE)」という団体を結成し、全国各地でその技術と職業の認知向上に取り組んできました。(出典:debardage-cheval-environnement.com)

科学誌「Forest Ecology and Management」に掲載された研究では、木材生産の機械化が気候変動よりも温帯林の劣化の主要因であると指摘されています。この研究はフランス北東部の206カ所を対象としたもので、重機が通った森では土壌が乾燥・圧縮し、樹冠の機能が失われ、生態系が貧しくなることが確認されました。フランス東部のブルゴーニュ・フランシュ=コンテ地域圏では馬搬業者への補助金制度(1立方メートルあたり最大40ユーロ)も設けられています。(出典:foretprimaire-francishalle.org)

フランス林業団体SFETは、馬搬が自然保護区、都市近郊林、沿岸林、湿地帯といった繊細な環境の管理に特に適していると位置づけています。馬は立木を傷つけず、土壌の踏み固めを起こさず、森の再生能力を保ちます。また馬糞は土壌を豊かにする一方、重機のような燃料漏れの心配がありません。(出典:sfet.fr)

 

アメリカ——「修復的林業」として

アメリカでは「Healing Harvest Forest Foundation(HHFF)」などの非営利団体が「修復的林業(Restorative Forestry)」としての馬搬を推進しています。選択的な伐採で森を開き、健全な木に光と空間を届けることで、長期的に採算性と野生生物の多様性を高めながら環境負荷を大幅に減らすことができると位置づけています。(出典:Mother Earth News)

アメリカ南部アパラチア山脈地域では、野鳥保護の観点からも馬搬が採用されています。馬は機械が入れない岩の多い急斜面や狭い場所に入ることができ、単木選択伐採に有効です。ゴールデンウィングウグイスなどの鳥類の生息地回復プロジェクトでも活用されています。(出典:Audubon North Carolina)

 

馬搬をしている花雪と馬方が高台から見下ろす。北海道のオシアンクルの森

5.オシアンクルの馬搬

オシアンクルには畑の先に

約19,000㎡(約5,700坪)、ぐるりと楕円状の川に囲まれた森があります。

私たちが初めてここへやってきた時、その森は一面に背の高い熊笹に覆われていて

進むことも見渡すことも出来ない場所でした。

最初にやったことは、森を区分けして少しずつ馬達を放牧し熊笹を少しずつ食べさせること。
笹が大好物の馬達によって、徐々に森の全貌が明らかになってきました。

そして次に取り掛かったのが、馬搬による散在した風倒木の整理。

同時に立ち枯れや混みすぎていずれかの木の成長を阻害するようなものを伐採し、

馬搬で運び出しました。

一部は薪に、牧柵の支柱に、または馬搬材を使った木工作品に生まれ変わりました。

必要以上の木の伐採はこの森では行いません。

森の環境整備として馬搬をおこなっています。

地域の森林ボランティアチームの作業で必要とされた時、

細かい林道が整備されていない林業現場で木材の搬出が必要な時、

体験イベントでの馬搬デモンストレーションなど

それぞれの場所へ出向いて馬搬をすることもあります。

生活の一部として馬搬がある。というのがいまのオシアンクルの馬搬です。

馬搬の価値は、作業が終わった後の森を見て初めてわかる。

単に現代林業の一部として馬搬を活かそうとすると
いつか馬か人に無理が生ずるような気がしています。
私自身もそうでしたが初めて馬搬を間近で見た時には
ひたむきに仕事をする馬の、その力強さや迫力に強く心を打たれました。
しかしその本質は、長い時間をかけて馬が仕事をした環境を時間をかけて観察する事でより深く理解できる。
​これは馬耕にも通じることで、どちらも目的ではなく手段なのだと思うのです。

高知県に住んでいた頃、私は炭焼きをやっていて、
その原木を山から運ぶのに人力で黙々と作業していました。
そして「これが馬搬でできたらなぁ」と、

そう思っていた事は今に繋がる原点にもなっています。

私たちはいわゆる農家ではなく百姓でありたいと思っています。

米を作り野菜を育てるし、木を伐って使いもする。
農家でも無いし林業家でもない。
里山環境を活かし循環させながら

馬と働いて生きる百姓。
 

昔はそんな生き方をしていた人々が沢山いたのでは無いかと思います。

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